「精神科で働くと病むって本当なのかな…
精神科に興味があって精神科看護師になってみたいと思っているけど、病むって言われると心配になる…もし病まない方法とかあったら教えてほしい」
こういった疑問にお答えします。
本記事の内容
「精神科看護師になると病むからやめとけ…」
「いや私は精神科看護師だけど病んだことはない」
いろんな情報を耳にすると混乱しちゃいますよね。
結論から言うと、精神科で働くと病むという客観的な事実はありません。
しかし精神科で働いていると病みそうになることはあります。
記事の信頼性

1. 精神科看護師として働くと病むは本当か?
精神科看護歴13年の個人的な意見としては、「精神科で働く = 病む」は言い過ぎという立場を取っています。
もちろん「精神科で働いても病まない」という根拠はありません。
かりに私が「13年働いて私は一度も病みませんでした」と熱弁したところで、「あなたは、そうだったかもね…」ってカンジで説得力はありません。
しかし、「精神科で働いても病まない」理由がないのと同じように「精神科で働くと病む」という根拠もありません。
下記はうつ病の危険因子です。

上記のとおりで、やっぱり「精神科で働く」は離婚や薬物乱用のような危険因子として並べられていません。
もちろん「精神科で働くと病むのでは…」という不安なってしまうのは、ごく自然な感情です。
精神科で働く前の状況だったらなおさらです。
とはいえ「精神科で働く = 病む」という客観的な事実はないことはたしかです。
それではもし精神科で病むような出来事が起こってしまったら、どうすればいいでしょうか。
2. 【体験談】精神科看護師キャリア13年が病んだエピソード
私は患者さんに訴えられました過去があります。
患者さんは30歳代 男性。
看護師なら誰もが知ってる精神疾患です。
彼は大学卒業後、定職につかず両親と暮らしていました。
両親は彼の未来を心配して声をかけますが、彼は二人の話を聞かず怒鳴って威圧しました。
一度だけ手をあげたことがあり、親はそれきり何も言えなくなりました。
両親は私の病院に相談した後、受診してそのまま母親の同意で強制的な入院となりました。
ここで私が彼の担当になりました。
最初は抵抗して暴れることもあったけど、2,3日で冷静さを取り戻しました。
感情を落ち着ける薬も幸いすぐに効果が現れました。
問題は両親との関係です。
両親は「もう息子とはいっしょに住みたくない」と言います。
もちろん家族が拒否すれば退院する場所はありません。
彼は「それなら病衣のままこのまま病院の外に出して欲しい。そうしたらあなたも僕のことで困らないだろ? 親戚のおじのつてがあるからなんとかなる」と言います。
もちろん実際には親戚のおじなどいません。
私は何度も家族に連絡して、「いかに彼が過去の暴力をふるったことを反省しているか。そして病棟で落ち着いて過ごしているか」を繰り返し強調して伝えました。
しかし家族は最後の最後まで一緒に暮らすことを拒否しました。
結局、両親がアパートを契約して、彼はそこで暮らすことになりました。
そしてその後、彼は病院と担当医そして私に対して裁判を起こしました。
「医師や看護師の対応に傷つけられた。僕は入院の必要はなかった」と。
両親は「何もわからないまま病院の医師に説得されて入院のサインさせられた。
強制入院なんて知らされていなかった」と言いました。
もちろん病院は有罪にならないよう私にアドバイスはしてくれました。
しかし、気持ちは晴れません。
「もし有罪になって前科がついたらどうする?」
「個人で弁護士を雇わなくて大丈夫か? いや雇うしても私にそんなつてないぞ
「どうしたらいいんだ…」
頭の中が、裁判、起訴、有罪という言葉で埋め尽くされました。
これは事後報告ではいけないと思い、自分の家族に連絡しました。
兄にもLINEすると、「すぐ顔を見せに来い」と言ってくれました。
私は言われたとおり兄の家へ行って、事情を話しました。
兄は医療者ではなくエンジニアでしたが、ずっと話を聞いてくれました。
そしてあまり料理が得意でもないのに、ご飯と味噌汁と焼き魚をふるまってくれました。
その後、私は都内の警察署で事情聴取を受けました。
テーブルと椅子だけしかないドラマで見た光景そのままの狭い部屋でした。
事情聴取が終わり、そして1年以上経って不起訴という知らせをもらいました。
もし家族に連絡せず、そして兄に悩みを相談していなかったら、私は落ちるところまで落ちていたと思っています。
私はもともと人に相談するのがあまり得意な方ではないですが、もし本当に自分が悩んでいるときにたった一人でも親身に話を聞いてくれる人がいれば、人の心はそうはたやすく病まないのだと実感しました。
参考 / 引用
・岡村仁 うつ病のメカニズム バイオメカニズム学会誌,Vol. 35, No. 1(2011)